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2007年12月12日 (水)

劇団月影【第三章】八話

「別離」

窓から漏れる暖かい陽射しを浴び、俺は恍惚とした気持ちのまま目を覚ました。
気がつけば、もうすでに昼過ぎである。

隣には、これからもずっと俺のそばに居てくれるであろう女神が、
俺の腕の中で眠っている…
はずであったが、すでに彼女はベッドには居なかった。

シャワーでも浴びているのだろうか?
俺はどうしても、もう一度彼女を抱きしめたくなり、部屋中を探し回った。
…が、彼女の姿はどこにもない…

何故か無性に、嫌な胸騒ぎがする…
俺は更に部屋の隅々を探し回った。
するとテーブルの上に、見慣れた宝石袋と、封に包まれた一通の手紙を発見した。

物凄く嫌な予感が、俺の心を支配する…。
俺は恐る恐る、その手紙の封を破った…。

『愛しいジュンへ

何から書けばいいんだろう…
私、こんなにも幸福に満ちた時間を過ごせたのは、生まれて初めてだった。
全てはアナタのおかげなの。本当にありがとう。

私は今日という日を絶対に忘れることは無いでしょう…。
アナタの愛と優しさを、一生分与えられた日ですものね。
この想い出さえあれば、私はこれからも生きて行けるわ。

ホントは これからも、アナタと共に生きて行きたい…。
その想いは、アナタも一緒でしょうけど、それはやはり無理な話なの。

私には、夫がいる…。
愛してはいない夫だけれど、夫婦である以上
アナタとの関係は、やはり不倫となってしまうの。

どんなに私とアナタが純粋に愛し合っていたとしても、世間から見ればそれは
ただの不道徳な不倫でしかないのよ。

私はアナタには、もっと幸せになって欲しい。
だからこんな猥らな関係に染まって欲しくは無いの…。
アナタには、私なんかよりも、もっと素敵な女性が現れる。

そしてアナタはきっと、ハイランダーになれる冒険者だわ。
私、これ以上アナタと一緒に居たら、アナタが冒険に行く度に
耐えられないほどの苦しみに襲われると思う。

アナタと兄が重なって、冒険に行くのを止めずにはいられなくなってしまう…。
アナタの冒険の邪魔だけは私、絶対にしたくないの…。
だからもう、アナタとは逢えません。

宝石は、これからの冒険に必要でしょう?
だから、気持ちだけもらっておきます。

アナタのような素晴しい男性と、一刻でも愛し合えた事を、誇りに思います。
最後に、幸せをありがとう。

さようなら…

アニスマダムライオンより』

…読み終えた手紙の上に、ポツポツと水滴が落ちてくる。
俺の頬を、熱いモノが通り過ぎていく…。

涙…!?

泣いているのか、俺は!?

生まれてすぐに捨てられ、親の顔も知らず、施設を転々と たらい回しに遭い
いつしか”悲しみ”という感情を失っていた この俺が、涙を流して泣いているというのか!?

気がつけば俺は、声をあげて泣いていた。

彼女にはもう逢えない、逢ってはいけないのだと、この手紙を読んで
そう理解した時に、俺の心はどうしようもないほど酷く傷付き壊れた。

物心ついた時から、涙なんて枯れ果てたと思っていたが
彼女との別れが、俺の中で とうに忘れ去られた この感情を、再び呼び覚ましたのか。

彼女と愛し合い、魂が一つになった俺だからこそ解る。
彼女がこの手紙をどんな想いで書いたのか…
どんなに心引き裂かれる想いで書いたのかを…。

彼女は決して、世間体や不道徳などという体裁を気にして
俺と別れるような女性(ひと)ではない…。
全ては俺の身を案じたからだ。

彼女の父親は、この世界でも相当な実力者であり、彼女の父の
その権力で、人一人この世から抹消・抹殺することなと、造作もないことなのだ。

これ以上俺が彼女に付きまとえば、彼女の父親は、必ず俺を消そうとするだろう。
彼女はそう予測し、俺のプライドを傷付けない為に、別の理由をつけて
俺の前から自ら姿を消したのだ。

その苦しみが解ったからこそ、俺は泣けたのであり、その彼女の気持ちに
報いる為には、もう彼女に逢うことは許されないのだ。

「アナタ二ハ、ワタシナンカヨリモ、モットステキナヒトガアラワレル。」

無茶言うなよ…
アンタ以上に素敵な女なんて、この世界中どこ探したって居やしないじゃないかッ!?

愛しい女性(ひと)との別れとは、こんなにも苦しいモノなのか?
愛しい女性(ひと)に逢ってはならないということが、こんなにも地獄に思えるのか?

だったらもう、愛なんていらない!
もう誰も愛さないッ!!

「こんなもんいらねえよッ!!!」

俺は、残された宝石袋を、壁に向って思いっきり投げつけた。
その勢いで宝石は中から飛び出し、辺り一面散らばった…。

「ちきしょう…、ちきしょう!」

ブレードナイトになった?

羽が生えた?

だからどうした!?

今回のことで俺は、あまりに自分が無力であり、ちっぽけな存在なんだと思い知り
彼女の手紙を握りしめながら、大声で泣き続けた…。

悲しみと、放心状態が交互に襲い、不安定な気持ちのまま、時間だけが過ぎていく…

気がつけば、外は暗く、夜になっていた。
ひとしきり泣き続けた俺は、床に散らばった宝石を一つ一つ拾い集め
この地ロレンシアを去る決心をつけるのだった…。

【第三章】…完

2007年12月10日 (月)

劇団月影【第三章】六話

「告白」(後編)

アニス:「私にはね、10歳離れた兄が居たの…」

”居た”か…、過去形だな…

アニス:「歳が離れていたってこともあったのかしら?
私、兄のことがすっごい好きでねぇ…
『大きくなったらお兄ちゃんと結婚するんだぁ』って、いつも言ってた…。
兄もね、それだけ歳が離れてると、私のこと可愛くてしょうがなかったんでしょうね。
私の言うことなら、何でも笑って聞いてくれてたわ…。」

オレ:「へぇ…」

兄妹とはいえ、少し嫉けてしまったではないか…

アニス:「へっへぇ~…ま、いわゆる”ブラコン”ってやつぅ?」

少し酔って来たのだろうか?
いつもの彼女とは、少し様子が違ってきた。

アニス:「兄もね、冒険が好きで、よく狩りに出掛けていたわ…
アナタにあげたその冒険服、それ兄のスペアなのよ…。」

…!?
居るのか居ないのかは知らないが、勝手にダンナのモノだと思っていたこの服が
実は彼女の兄さんのモノだったとは!?
やはり思わぬ方向へ話が展開してきたようだ。

オレ:「…で、その兄さんは、今でも狩りを続けているのかい?」

アニス:「………死んだわ、7年前にね…」

しまった…。過去形だったのだから、それなりに想像がついたことだろう?
この服が彼女の兄さんのモノだと知り、油断したからだろうか…
余計な相槌を打ってしまったと、俺は酷く後悔した…。

オレ:「そっか…。ごめん…。」

アニス:「何でアナタが謝ることあるのよ?
この先 話が出来なくなっちゃうじゃない?(笑)」

オレ:「あ、うん…。続けて。」

アニス:「”天空の不死鳥”って知ってる?」

オレ:「いや…」

アニス:「イカロスって処に棲息しているモンスターなんだけど、その不死鳥から
”不死鳥の涙”って宝石が、ドロップすることがあるらしいの。
その”不死鳥の涙”が私、どうしても見たくってね…。
兄が帰ってくる度、いつもいつもおねだりしてたわ…。」

オレ:「へぇ…」

アニス:「父は、大会社の社長でね、兄に会社を継がせたかったから、
兄が冒険者でいることに物凄く反対してたし、顔を合わせれば、
狩りを止めて家に戻れの一点張りだった。
兄は、そんな父が嫌だったんでしょうね…
益々父に刃向かうようになって、だんだん家にも戻らなくなるようになってきたの。
私も凄い不安になって…でもね、私の中で、兄の存在って、何でも出来る
強くて優しい”スーパーマン”だったのよ。
だから兄が”死ぬ”なんて、とても思ってもみなかったわ…。」

オレ:「………」

アニス:「誰にも頼らず、一人で不死鳥を倒せたなら、きっと父さんも冒険者として
俺のことを認めてくれるはずだって、仲間達には、そう話してたらしいの。
そして兄は、本当に一人で”天空の不死鳥”に挑んだらしいわ。
…で、それっきり、兄は帰っては来なかった…。」

オレ:「………」

アニス:「私は、自分を責めた…。
兄を失うぐらいだったら、不死鳥の涙なんてねだるんじゃなかったって…。
兄が亡くなってからは、父も人が変わってしまった…。
とても温厚で優しい人だったのに、それ以来、他人を寄せつけない、
酷く冷酷な人間に変貌してしまったの…
仕事の取引相手にも、以前は信頼関係を優先していたのに、それ以来
利益優先の冷徹経営に変わってしまい、私ともあまり口を利かなくなってしまった…。」

オレ:「………」

アニス:「そんなある日、父の会社を買収しようと、別の大手会社が圧力を掛けてきたの。
でも父の冷徹経営は強固でね…。
とても買収出来るレベルではないと解ったら、今度は方法を変えてきたの。
向こうの企業の御曹司が、私との結婚を介して、そのまま父の会社を相続しようと
企んできたのよ。ベタだけど、スマートな考えよね…。」

…!?
話が更にあらぬ方向に行ってしまっているが、これはやはり
俺にとってマズい展開ではないのだろうか…?

アニス:「父は相手の考えが見え見えだったけど、その御曹司に実際会ってみて
逆にその、見え見えだった野心が気に入ったらしく、
その御曹司を婿に迎え、自分の会社を継がせると決心した。」

オレ:「………」

アニス:「私は、兄を死に追いやった罪悪感でイッパイだったし、
その事で父に負い目もあった。
父は御曹司を気に入り、更には向こうの企業とも業務提携が密になって
父の会社は益々利益を上げていった。
御曹司は、その大きくなった父の会社を行く行くは何の労せず自分のモノとして継げる。
ここで、三者の利害が一致し、誰も反対することなく、
私とその御曹司との政略結婚が決まったの。」

………ついに嫌なことへの核心に触れてしまったようだ。
やはりこの女性は、”人妻”だったのである…。

アニス:「でもね、愛の無い結婚生活ほど、酷く残酷な関係ってないって思ったわ…。
同じ家に住んでいても、会話は事務的なモノばかり。
それからは、相手と一緒に居ることが互いに苦痛に思えてきて、
堪らなくなり、どんどん顔を合わせることが無くなって
ついには彼は、仕事を理由に家には戻らなくなるようになった…。」

オレ:「………」

アニス:「それでも彼は、父の手前、ましてや会社相続の為には、
私と絶対に別れる気なんてないのよ。
それでね、私は彼に、店を持たせてくれって頼んだの。
彼も二つ返事で了承したわ。
オフィシャルに別居の口実が出来たわけだし、彼にとって後(のち)に父の会社を
継ぐことを考えれば、店を一軒用立てるぐらい、わけないことだったしね…。
それがあの”ロレ酒場”であり、私が唯一拠り所としている処なのよ…。
これが今の、私の現状ってわけ…。
どう…?幻滅したでしょう…?」

オレ:「…いや」

アニス:「ロレ酒場で、アナタを初めて見た時に、ホントに驚いた…。
アナタ…そっくりなのよ…、死んだ兄に…。」

オレ:「!………」

アニス:「雰囲気とか…しぐさとか…特に目が瓜二つなの…
それからはアナタが気になって気になって仕方無かった…。
ホントごめんなさいね…私ズルい女なのよ…
アナタが私に好意的なのも解ってたし、逢えばいつも優しく私を和ませてくれてた。
それが私には堪らなく居心地が好くて、私の中でアナタって存在が
どんどん大きくなって行ったわ。これが”恋”ってものなのかしらね?」

オレ:「………」

アニス:「でもね、気付くのが遅過ぎた…。きっかけは兄に似てたから…。
そして、愛の無い旦那との空白を埋める為、結果的にアナタを利用してたんだわ…。
それが今、やっと解ったの…。やっぱり私って、酷くズルい女なんだって…。」

オレ:「………」

アニス:「だから私、今日でアナタと逢うのを最後にしようって思ったの…。
いいえ、アナタのような優しい人に、これからもずうずうしく逢い続けるなんて、
そんな資格、私には無いのよ…。」

オレ:「………。………。………。
…おいおいおい、さっきから黙って聞いてれば、何言ってんだよ…!?
一人で勝手に話進めやがって…。」

アニス:「!?………」

オレ:「いいかい?俺はまだ、アンタに俺の気持ちを まともに伝えていないんだぜ?
それをアンタが勝手に話を進めてもらったら、こっちが困るんだよ!」

アニス:「…そうね、アナタの言う通り、私は高飛車な女だったわ…
勝手にアナタが私を好きだと決めつけて、話を進めてしまっていたのよね…
ホント…ごめんなさい。」

オレ:「あ~、もうッ!!
何でアンタはそう間違った方向、間違った方向へと物事を進めてしまうんだ!?」

アニス:「?????…」

オレ:「えっとね、俺はアンタが好きだ!大好きなんだよ!!
だから、俺がムカついてるところは、そんな所じゃないんだ。」

アニス:「!……?」

オレ:「アンタが俺を気に入ったきっかけが、兄さんに似てたからってのも、
俺はそれで構わない。
むしろ、アンタに気に入られるきっかけになってくれた、兄さんに感謝したいぐらいだ。」

アニス:「!?」

オレ:「更に言えば、アンタにダンナが居ようが居まいが、そんなモノ俺には関係無い。
俺が勝手に、アンタを好きになってしまったんだからな。
そして全てを話してくれた今でも、俺は前と変わらず…
いや、今はもっと、アンタを好きで堪らないんだ!」

アニス:「!!」

オレ:「だからもう、俺が優しい人間だとか、逢う資格がないとか、何でも勝手に
決めつけて、自己解決してんじゃねえよって、俺は言いたいんだ!」

アニス:「…う、うう…。」

今まで相当我慢していたのだろう…
とうとう堪え切れなくなってしまい、彼女は声を殺して静かに泣き崩れてしまった。
そんな彼女に対し、更に俺は、こう続けた。

オレ:「それに一番の勘違いだが、お前のお兄ちゃんは、お前のせいで死んだじゃない!
父さんに認められたくて、まだ未熟だったのに、力量もわきまえず
焦って一人で不死鳥に挑んだのが原因なんだ。
だから決して、アニスが気に病むことじゃないんだよ!」

…あれ?どうして俺、こんなこと言ったんだろう…?

アニス:「…!?お兄ちゃ…ん…?」

…はッ!?まさか霊媒…とか…!?
…はは…、まさか…ね…?

オレ:「…あ~、とにかく!ずっと俺、アンタに憧れてたんだ。
だから俺は、アンタの中から”ボウヤ”を卒業したくて、必死になって
今まで頑張ってきたんだよ。
さっき酒場で、俺を名前で呼んでくれた時には、どんなに嬉しかったか知れやしない…。」

アニス:「………」

オレ:「どんどんアンタを好きになってって、今はこんなにも、アンタを愛してる。
アンタが俺の中に兄さんを見てるなら、それはそれで構わない。
いつかは俺を、俺だけを愛してくれるよう努力していく。
だからもう逢えないなんて、悲しいことは言わないでくれ。
俺はこれからもずっと、アンタと共に生きて行きたいんだ。」

アニス:「………。
アナタこそ、勝手に話進めないでよ…。
私はね、アナタの中にお兄ちゃんを見ているわけじゃない…。
今はね、”劇団月影”っていう、一人の男を愛しているのよ…。」

オレ:「へへ…、嬉しい事言ってくれるじゃない?
でもね、俺も”劇団月影”なんて、ただの通り名なのさ。」

アニス:「………。
やっぱりね、変な名前だと思ってたわ。
ホントの名前は何ていうの?」

オレ:「ぅ…、変な名前はないだろう…。」

アニス:「アハ、ライオンを小馬鹿にしたお返しよ。」

彼女は舌を出しながら、茶目っ気たっぷりにそう言った。

オレ:「ジュン…」

アニス:「ジュン…、へ~、ジュンかぁ。素敵な名前ね。」

オレ:「まあな、昔は女みたいな名前で嫌いだったけど、今は結構気に入ってるんだ。」

アニス:「そっか…、じゃあ、お互いに、本名を知った所で
今日からは、新たな二人として、出逢いをやり直しましょうか?」

オレ:「ああ、いいね。そうだね。俺達は、これからが本当の始まりなんだ。」

アニス:「アナタって、やっぱり優しい男性(ひと)だわ…。
これは決めつけじゃなく、私が感じてることだから…。
話を聞いてくれて、ありがとう。
アナタに全て聞いてもらえて、私、救われた気がするの…。」

オレ:「へへ…」

そして俺達は、新たな出逢いを記念して、乾杯し直した。
それからの俺達は、とりとめの無い話に時間を忘れるほど夢中で興じた。
他人が聞けば、ホントに些細なこと、くだらないことではあったが、二人にとっては
かけがえの無いモノとして、互いの胸に残った。

それからしばらくして、そのバーを後にした俺達は、
どちらからともなく宿をとるのだった…。

つづく…

2007年12月 9日 (日)

劇団月影【第三章】伍話

「告白」(前編)

全ての始まりの地、ロレンシアへと俺は戻ってきた。
愛しい女性(ひと)、マダムライオンが居る、この街へ…

先程生えた羽だが、どうやら俺の意志で自由に収納出来るらしい。
さすがに街中で、羽を生やしたまま歩き回るわけにもいかないしな…
装備を倉庫にしまい、羽も体内にしまった。
まあ、いわば上級冒険者としての、”嗜(たしな)み”というヤツである。

ヒドラに受けた傷を癒す為、宿屋で半日ほど休んだ後
大分体力が回復した俺は、早速マダムの居るロレ酒場へと向った。
酒場の中は、相変わらず大勢の冒険者で賑わっている。
俺は真っ先に、お目当てのマダムが居る、カウンターの前へと座った。

オレ:「やあ、久し振り!」

マダムライオン:「ウフフ…待ち侘びたわよ、ボウ…」

「羽も生えたんだし、ボウヤは やめてくれ…」
そう俺が遮ろうとした瞬間、続けて彼女から、意外な言葉を耳に出来た。

マダムライオン:「…いえ、”ツキカゲ”って呼ぶべきかしらね?」

そう言いながら、彼女は不適な笑みを浮かべていた。

ついにマダムが、俺を名前で呼んでくれたのだ!
これにはさすがに、テンションが上がってしまったではないかッ!?

マダムライオン:「アナタ…雰囲気が随分変わったわね…?
前は見え見えだった無鉄砲さが、今では消えた感じがするわ。」

そう言って彼女は、少し嬉しそうに笑っていた。

オレ:「これで今夜一晩、アンタを買いたいッ!」

俺は、今回のアトランス遠征で得た全ての宝石が入った
宝石袋を、勢い良く彼女の前に差し出した。

彼女は目を丸くし固まっている…。

周りに居た冒険者達(野郎共)は、ナンヤカンヤと俺に向かって野次を飛ばす。

マダムライオン:「前言撤回…、相変わらずの無鉄砲振りだわ…。」

呆れたそぶりを見せながらも、彼女は嬉しそうに
その宝石袋を奥へ持って行くと、俺にそっと、小さなメモ用紙を渡してきた。
そして俺の耳元に顔を近付け、小声でそっと…

マダムライオン:「今日は若い娘達に任せて、早目に店を切り上げるから
アナタはそのバーで待ってて頂戴。」

さすがにこの店で彼女を口説くのは無謀か…
マダムはここのマドンナ的存在だろうからな…

さっきから他の野郎共が、いかにも敵意剥き出しといった感じで
こちらを一斉に睨み続けている。
ここはとにかく、彼女の言う通り、別の店へと移動すべきだろう…。

オレ:「分かった、じゃあ、また後で。」

そう小声でマダムに告げると、他の男共からのイタイ視線を感じながら、
俺は店を後にした。

…しばらく歩き、メモに書いてあった別のバーへと、俺は やって来た。
地図は相変わらず大雑把だったのは、言うまでも無い…

店を見渡すと、ほとんど男女二人のアベックばかりが目立つ…
まあ、そういう”雰囲気”のある、中々小洒落た店ってことだ。

店員:「お客様、お一人様でしょうか?」

早速店員が御出迎えしてくれる。

オレ:「いや、後からもう一人来る予定だ。」

店員:「かしこまりました、ではこちらへどうぞ。」

そう言って店員は、俺を二人用のテーブルへと案内してくれた。

オレ:「とりあえず、ウイスキーの水割りを頼む。」

店員:「かしこまりました。」

注文を済ませると、ほどなくしてウイスキーは運ばれてきた。
それをチビチビと飲み始める。
一刻一刻が待ち遠しく、彼女に俺の気持ちを伝えることが
楽しみでもあり、また不安でもあり…
そんな不安定な気持ちのまま、俺は彼女を待ち続けた…。

それから一時間ほど経っただろうか…
カランカラ~ン…
店のドアが開く音がした。
その方向へ目を走らせると、そこには白いドレスに着飾った、とびきり美人な女性が
息を切らせて立っていた。
その美人とは、勿論俺の待ち人”マダムライオン”その人である。

他の男性客が皆うっとりした目で、その女性を一斉に見つめていた。
そんな女性が、俺の席へと真っ先に駆け寄ってくる。
そう、彼女は俺だけを見つめ、俺だけの為に、この席へと足早にやって来るのだ。
その間俺の、他の男性客へ対する優越感たるや、なんとも形容し難いものがあった。

俺の席へと彼女が座ると、周りの男共は深いため息をついている様子だった…。
そして、その男共の連れの女は、相手に何をしたか…
”言わずもがな”といったところだろう…。

彼女が現れたことで、また店員がオーダーを聞きにやってくる。

店員:「ご注文は、いかがなさいましょう?」

マダムライオン:「彼と同じモノを…。アナタも一緒でいい?」

彼女は着ていた上着をたたみながら、オーダーする。

オレ:「ああ、よろしく。」

店員:「かしこまりました。」

「彼と同じモノ」「アナタも一緒」…何とも言えぬ、心地良い響きである。
一酒場の店主ともなれば、当たり前の対応なのだろうが、
俺のグラスが全て飲み干されていたことに気付き、俺の分まで注文してくれる
何気ない心配りが、何とも言えず嬉しかった…。

マダムライオン:「ごめんなさい、仕度に手間取っちゃって…
このドレス、変じゃないかしら…?」

彼女は顔を赤らめながら、恥ずかしそうに俺に聞いてきた。

俺の中では、いつもの彼女は酒場のカウンターで
赤い服を着ているイメージしかないからな。
こういった”正装”姿の彼女は新鮮であり、また とても綺麗であった。

オレ:「全々変じゃない、とても好く似合っている。綺麗だ…」

俺は素直に、ありのままの感想を彼女に伝えた。

マダムライオン:「ありがとう。」

俺の一言を聞いてホッとした様子の彼女は、満面の笑みでそう答えた。

店員:「お待たせしました。」

ほどなくして店員は、注文通りにウイスキーの水割りを二杯持ってきた。

俺達はそれぞれグラスを手に取り、乾杯をする。

マダムライオン:「ねえ、何に乾杯?」

彼女はニヤニヤしながら聞いてきた。
使い古されたパターンだが、ここは気取って
お約束のこのセリフを言っておくのが無難であろう…

オレ:「君の瞳に…」

マダムライオン:「ぶッ!」

…セリフを言い終わる前なのに、思いっきり笑われているぞ…
そこで俺は、急遽セリフを変えることにした。

オレ:「…映ったボクに乾杯。」

どうだ?我ながら見事な切り返しである…。
だが彼女は、冷ややかな目をしながら俯(うつむ)き、小声で「かんぱ~い」と囁いて
グラスをちょこんと交わすと、何事も無かったかのように水割りを飲み始め
スルーしてしまった…。

こちらとしては、自信満々で言ったギャグなのに、
それをスルーされることほど、悲しく惨めなものはない…
しょんぼりしながら俺も飲みはじめると…
俯いたままの彼女の両肩が、プルプルと震え始めた。

マダムライオン:「…フ…フ…フフ……アハハハハハッ!」

突然彼女が笑い始めた。

マダムライオン:「アナタって、本当に面白い人ねぇ?
笑うの必死で堪えてたけど、無理だったわ…。」

オレ:「全く…、素直じゃないんだから…。」

マダムライオン:「アハハ!よく言われる。」

屈託のない笑顔を浮かべる、目の前の彼女は、本当に綺麗だった。
この世界に来てから、ずっと憧れ続けた女性が、
オシャレしてくれてまで、目の前に居る…。
何とも現実性に欠けたシチュエーションではあるが、
確かに彼女はこうして俺の目の前に居るのだ。

前に彼女の部屋で二人きりになったことはあったが、あの時は俺が怪我をした為に
起った偶然であって、今回のようにキチンと約束をして
二人だけで会うということが、俺にとってどれほど凄いことなのか…
そんな事を考えると、胸が張り裂けそうなほど、俺の気持ちはドキドキしていた。

これは夢だろうか?何度もそう思ってしまう自分が居たが、
やはり夢ではなく、現実なのである。
この感覚が、不思議に思えて仕方なかった。

マダムライオン:「…さて、今夜一晩、私を買うんだっけ?」

そんな彼女に見とれていると、唐突に彼女がニヤっとしながらそんな事を聞いて来た。

オレ:「あ…、ああ、そう!今夜は一晩、ずっと俺と一緒に居て欲しい…。」

マダムライオン:「アナタ…私を誘ってるってことが、どういう事か解って言っているの?」

顔は薄い笑みを浮かべていたが、目は真剣に、少し挑発的な感じで俺にそう聞いてきた。
この時俺は、やはり”マダム”と呼ばれていることを指しているのだろうと、直感した。
聞きたくもなかったので、今まで先延ばしにしてきたが、
やはりもう、聞かないわけにもいかないのだろう…

オレ:「ああ、なんでアンタが”マダム”と呼ばれているかってことだろ?」

マダムライオン:「フフ…、勘がいいのね…。」

…正直否定して欲しいところだったが、”こういう答え”ということは、
やはり”そういう事”なのであろう…。
だが彼女は、続けて意外なことを言ってきた。

マダムライオン:「”マダムライオン”は通り名よ。私の本当の名前は”アニス”って言うの。」

…!?これはまだ、チャンスがあるってことだろうか?
話が意外な方向へと転がっているように思えた。

オレ:「アニスか…。かわいい名前だね。」

本当に、かわいい名前だと思った。ライオンとは大違いである…。

アニス:「でしょ?よりにもよって、”ライオン”はナイわよねぇ?」

彼女自身もそう思っていたのか…

オレ:「だよな…、ライオンはナイわ…。」

アニス:「アナタ…初対面では、”イイ名前”とか言ってたくせに…」

オレ:「ぅ…」

O型のくせに、意外と細かいことを覚えてやがる…

アニス:「いつの間にかね、勝手に付いちゃったのよ、そんな通り名がね…」

オレ:「金髪が鬣(たてがみ)で、怒った顔がライオンそっくりだったからじゃない?」

ゲラゲラ笑いながら、そんなことを口走った俺の顔に、次の瞬間激痛が走った!
目の前の女神からの”鉄拳制裁”である…。

そんな女神の顔だが、殴った瞬間本当にライオンのように見えたのは、当然内緒である…
鼻血が出たようなので、おしぼりで顔をフキフキしていると、彼女は頬杖をついて
ぼぉ~としながら俺の顔を眺めていた。

アニス:「ホントにね、そっくりなの…。」

ボソっと呟くように、彼女は言った。

オレ:「何が?」

アニス:「少し…、私の話を聞いてくれるカナ?」

オレ:「ああ、いいぜ…。」

その後 彼女の口から、過去の全てが語られるのだった…。

つづく…

2007年12月 8日 (土)

劇団月影【第三章】四話

「アトランス」(後編)

アトランス3…

相変わらずバハムートがうようよ居たが、長い時間泳ぎ続けた為
その大群にも、大分見慣れてきた…
…が、やはり気味は悪い…。

そいつらを狩りながら奥へ進むと、今度は銀色のメタリックな人型モンスターが現れた。
”シルバーバルキリー”と呼ばれるそのモンスターは、
まさに全身メタリックといった感じで、見るからに硬そうな体をしている。
前にDS2で見た、ボスのメタルバルロックの体に酷似していた。
何発かGBをかましてみるが、やはりあまり効いてはいない。

そうこうしているうちに、今度は新手の”リザードキング”というモンスターも現れる。
俺が中々殲滅しきれないでいると、気が付けば
”バハムート”に”シルバーヴァルキリー”、更には”リザードキング”と
それら3種が大群となって、俺の周りを取り囲む状況に陥っていた。
その数ざっと、十数匹といったところだろうか…?

我ながら、相変わらずの火力の無さである…。
更にはリザードキングが放つ、稲妻の魔法によって、色んなところに飛ばされてしまい
散々振り回された為、俺の攻撃が中々ヒット出来ず、そいつらを倒すのに
更に更に時間を費やしてしまった。

稲妻攻撃のおかげで大分足止めを喰らったが、その間
相当な数のモンスターを狩れたので、まあ、良しとしておこう…。

稲妻に振りまわされながらも、地味にではあるが、少しずつ前進していた為、
いよいよこの地形の終点と思われる、岩に囲まれた大きな部屋のような処に辿り着いた。

やはり海というだけあって、アトランスという地形は
他のマップとは比べものにならないほど壮大であった。
…だがそれも、もうすぐ終焉である。

そんな感慨からか、呑気に泳ぎを楽しんでいると、遠くの方から突然
大きな光の束が飛んできて、俺を撃ち抜いた!
相当な、極太レーザーである。

とっさに盾で防いだものの、さすがの俺も相当なダメージを喰らってしまった。
体勢を立て直し、落ち着いて周りを見渡すと、先程のレーザー砲は
無差別にあらゆる方向へと飛んで行っている…。

どうやら俺を狙い撃ちしたわけではなく、適当に撃ったレーザー砲が
たまたま直撃してしまったらしい。
これで少しは安心出来た…。
いくら頑丈な俺でも、あの極太レーザーに正確に狙い撃ちされては堪ったものではない。

レーザーに気を付けながら、そのレーザーが飛んでくる方向へと近付いてみる。
安全そうな岩陰から、そのレーザーの主の姿を捉(とら)えることが出来た。
相手はまだ、こちらには気付いていない…。

”ヒドラ”…この”アトランス”を仕切るボスだ。

バルロックも大きかったが、こいつはその倍はあろうかという大きさである…。
あんこうのような体の上に、蛇が4匹、頭として乗っているような
気味の悪いモンスターだ。
ゴ○ラのキン○ギドラの胴体が、あんこうになっていると思ってもらえばいい。

その蛇のような頭から、やはり無差別にレーザー砲をぶっ放している…。
更には胴体のほとんどが”口”になっているようで、物凄くデカい
その口が、いかにも人間を食(しょく)したいと言っているようだった。

あんなデカ口に飲み込まれては、俺などひとたまりもないだろう…。
こいつを相手にするには、相当な覚悟がいるようだ。
正直逃げ出したい気持ちもあったが、ここまで来て後へは引けない。
勇気を出してヒドラに向かい、斬り掛かった。

さすがに斬りつけられては、奴も そこまで鈍感ではないらしく、こちらに気付き
蛇の頭が4匹とも、俺に向かって視線を集中している。

そして一気に俺に向かって極太レーザーを4本放射してきた。
海の中の為、動きが鈍っていたが、何とか俺は そのレーザーを
ジャンプ一番かわし、そのまま前宙して、奴の後方へと回り込んだ。
もろに隙だらけの背中目掛け、思い切りGBを叩き込む。

「ギエェエエェェ!」

相当効いているようだ。
すると奴はゆっくりと体を回転させて振り返り、またレーザーを発射してくる。
それを俺はまたジャンプでかわし、前宙して奴の背後に回り込み、GBをかました。
これを繰り返していけば、楽勝かッ!?などと余裕をかましていた、その時…

「ぐはぁッ!!」

俺の背中に強烈な激痛が走った。
何と俺の後ろには、もう一匹 別のヒドラが居たのだ。
そいつから、もろにあの極太レーザーを背中に喰らってしまった!

一匹目のヒドラもこちらを振り返り、前方と後方、二匹のヒドラから
挟み撃ち状態に遭ってしまった。

俺が受けたダメージも、相当なものである…
目がかすみ、意識が朦朧としてきやがった…

このままではマズい…
そんな時、俺の懐から、突然”震破の玉”が飛び出して、目の前で破裂した。
そして不思議な光が俺を包み込む。
TC、GBを覚えた時の、あの光だ!

無意識に俺は剣を上空に高く振り上げ、そのまま地面へと思い切り叩き付ける!
大地が裂け、そこから溶岩が溢れ出す。

新技、”オメガインパクト”!!!

大地が裂けた勢いで、俺の前後に居たヒドラ二匹は
まるで地上に引き上げられた魚のようにひっくり返り、バタバタと慌てふためいていた。

今にもレーザーを発射しようとしていた状態でひっくり返された為、
勢いで二匹とも、そのままレーザーを発射してしまい、俺がそれをジャンプしてかわすと
互いのレーザー砲で自爆の相撃ちとなり、二匹とも
かなりのダメージを喰らったようだった。

着地後すかさず、前方のヒドラにGB連打を叩き込む。

「ウゲェエェエエエェエエエエェエエエェエェエ…」

見事ヒドラを一匹仕留めた。

さて、次はもう一匹だ!
振り返ると、もう一匹のヒドラはすでに体勢を立て直しており
今にもレーザーを放とうかというところだった。

間一髪レーザーをかわすと、俺はもう一度、オメガインパクト(以後OI)を放った。
OIによって裂けた地面に体を挟まれたヒドラは、身動きがとれず もがき苦しんでいる。
その隙に、勿論そのままGBを撃ち込んだ。

「ウゲェエェエェエェエエエエエエェエエェエエ…」

似たような断末魔を放つと、もう一匹のヒドラも、海のもくずと消えた…。

すると突然、俺の背中が燃えるように熱くなって来た。
先程喰らった攻撃の痛みだろうか…?
いや、違う…!これはそんな類(たぐい)のモノではない…
背中の熱気が更に上昇し続け、激しく俺を貫いた。

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおッ!!」

バサバサッ!!

気が付くと、俺の背中には大きなコウモリのような羽、”サタンの羽”が生えていた。
おおッ!これが今まで散々言われてきた、うわさの”羽化”って奴かッ!?

瞬間移動で一気に地上へと戻ってみる。
すると俺の全身は、フワリと宙に浮いていた。
これは実に気持ちの好い、まるで鳥にでもなったかのような感覚だった。

やった!ついに俺は羽化することが出来たのだ!!
そして俺は、かねてより決めていた、マダムへの想いの全てを、彼女に告げる…
その決心を、この時 固めたのだった。

つづく…

2007年12月 7日 (金)

劇団月影【第三章】参話

「アトランス」(前編)

新たな戦いを求め、俺は”アトランス”と呼ばれる狩り場へ向かって歩みを進めていた。

ノリアの街を東に出てから、そのまま道なりに南へ進んで行く。
すると、複数のモンスターが俺に向かって襲い掛かって来た…
のだが、もはやこちらが気の毒に思えてしまうほど
俺とそのモンスター達とのレベル差は、天と地ほども離れていたのである。

相手は俺を”殴っている”つもりなのだろうが、今の俺にはそれが
”ただ体に触れられた”ぐらいにしかとれないのだ。
この辺りのモンスターと俺との間に出来たレベル差とは、それほど酷い隔たりなのである。

特に酷かったのが、デカイ図体をした、見た感じ、いかにも強そうな
”ゴーレム”と呼ばれるモンスターだ。
こいつの見かけ倒しほど、酷いものはないだろう…。
逆に、俺が少し”触れた”だけで、ポロポロと脆くも崩れだしてしまうほどだった。

あまりにもかわいそうだった為、こいつらを無視して進むことにする。
言うなれば、プロレスラーが入場時に、たくさんのファンから体を触られながらも
意に介さず、そのままリングへと向かうぐらいの感覚であろう。
次々に現れるモンスターを無視し、俺は先を急いだ。

そうこうしているうちに、海へと続いている不思議な一本道が見えてきた。
その道とは、そのまま海水の中へと続いているわけだが、
はて?一体どうしたものだろう…?
だが、冒険の書を見れば、確かにこの海の中が、俺の次の目的地
”アトランス”となっているのである…。

しばらくその前で躊躇したが、俺は恐る恐るこの先へと進むことにした。
足元から腰、胸へと、どんどん海水に浸って行く…。
ついには全身、海の中へと入ってしまった…。

アトランス1…

ここは海の中、”アトランス”…。
…そう、”海の中”なのである!
おそらくこれを読んでいる読者全員の気持ちは、一つの想いで合致しているだろう…

「呼吸出来ね~じゃねぇかッ!?」

…だがしかし、現に俺は、この水中アトランスにおいても、地上と全く同じように
何の不自由も無く呼吸出来ているのである…。
何故かは解らないが、口を開けても体内に水が入ってくるわけでもなく、
ましてや声さえ発することが出来ているのだ。

恐らくは、薄い膜のようなモノが、俺の全身を覆っており
俺と水とを遮断しているのではないかと推察する。
その証拠に、一度ここから陸へと上がってみたのだが、
俺の体は少しも塗れていなかったのだ。

呼吸についても、海水から酸素へと還元して、
直接俺の体内に送り込んでくれているのではないのだろうか?

…まあ、現にこうして、何不自由無く水中でも活動出来ているわけだし
素人があれこれと、グダグダモノを考えても仕方が無いだろう…。

早い話、海○語のマリ○ちゃん方式みたいなモノである。

しかし、海の中を酸素の心配もせずに、自由に泳ぎまくれることが
これほど快適だったとは、全く知らなかった。
これはちょっとした、ダイバー気取りである。

しばらく泳ぎ進むと、俺の横を魚群が通り過ぎていった。
「激アツかッ!?」などと、アホなことを考えている場合ではない。

これは魚の形をしたモンスター、”パージバハムート”の大群である。
気が付けば、すでに囲まれていたので、とりあえず
お約束のTCで迎え撃つと、これもあっさりと倒せてしまった…。

どうやら俺は、この世界を回る順番…言わばセオリーというものを、
ことごとく無視し続けて生きてきたような気がする…。

このアトランスも、そしてノリアも、デビルスクエアも、本来ならば
もっと先に経験しておくべきイベントだったのだろうと、今にして思うのだ。

更には、道標となる冒険の書も、極力見ないようにしてきたこともある。
最初は、読むのが面倒臭いというのが正直な理由だったが、今となっては、この世界を
常に新鮮な気持ちで楽しみたいという思いが、強くなってしまったからだ。

そんな思いから、今まで何事も、全て一人でやってきた、情報収集の少なさから来た
ツケだろうし、それはそれで仕方がないと、最近では そう思うようになっていた。

パージバハムートの他には、人魚のような”ファルネウス”というモンスターも居たが
戦ってみても、どちらもまるで歯応えが無い…。
もはやこの辺りはスルーの方向で良いだろう。
俺はそのまま、先を急いだ。

アトランス2…

…しばらく進んだところで、俺は驚愕した。
先程倒したパージバハムートだが、こんどはかなり遠くの位置から目視出来たのだ。
「あの大きさで、この位置からは見えるはずないのだが…?」
そう思いながらも、俺はゆっくりとそのパージバハムートの方へと近づいてみた。

そのパージバハムートを近くで見た俺に、かなりの衝撃が走る…。
何とそのパージバハムートは、浅瀬で見かけたパージバハムートの4、5倍は
あろうかという大きさだったのだ!。

名前は”バハムート”…
なるほど、浅瀬に居た小さいバハムートに”パージ”が付いていたのは
こっちの大きい方がオリジナルだからというわけなのか…。

だが、俺が最初に見掛けた方は”パージバハムート”であり、それと全く同じ形をした
巨大なモノを後から見せられても、俺の中ではすでに”パージバハムート”が
本家として認識されてしまっている為、後から巨大な方が本家ですとか言われても…
これにはもう、視覚的に嫌悪感すら覚えるほどだった。

人間、自分の中で、一旦この程度の大きさと認識してしまったモノが、後になって
そっくりそのまま、数倍もの巨大なモノとして現れる…
その不快感といえば、相当なモノであろう。

昔、俺が子供の頃に、田舎に釣りに行った時に受けた衝撃を思い出す。
おたまじゃくしを思い浮かべて下さいと言われたら、大半の人は2cm程度の
おたまじゃくしを思い浮かべるであろう…。かく言う俺もそうだった。
それが一般常識であり、一般認識でもある。

だが俺が、昔田舎で見たおたまじゃくしは、ゆうに10cm以上はあろうかという
巨大おたまじゃくしであり、それが何匹も大群で、うようよと泳いでいたのである。
成長した”かえる”ではなく、幼型の”おたまじゃくし”が、である。

今まで2cm程度と認識していたおたまじゃくしという存在が、
軽く10cm以上もある巨大おたまじゃくしが存在した…。
それを目撃した衝撃というものは、そう簡単には消えず、子供の頃の記憶でも
今でも鮮明に目に焼き付いている。

それが今回、昔見たおたまじゃくしと重なって、酷く気味の悪い映像として俺には映った。
一種のトラウマ映像とも呼べるほどに…

たまらずGBをかまし、秒殺する…。
ノリアに居たゴーレムと同じ、見かけ倒しな敵ではあったが、
視覚的には相当なダメージを喰らった気がした。

辺りを見渡せば、そんな巨大バハムートがウヨウヨ集まってくる…。
更に気分の悪くなった俺は、無視するように先へと進むのだった…。

つづく…

2007年12月 6日 (木)

劇団月影【第三章】弐話

「デビルスクエア」(後編)

デビルスクエア…

何とか入場に間に合ったのは良いが、辺りを見渡すと、数十メートル四方に囲まれた
薄暗く大きな部屋の中に、俺は送り込まれていた。

すると辺りには、次々と今までに見覚えのあるモンスター共が、何十匹と群れをなし
俺に襲い掛かって来た。一瞬にして、あっというまに囲まれてしまい、タコ殴りに
遭ってはいるが、それでも全く痛みを感じないほど、今の俺はパワーアップしていた。
…が、このとんでもない数のモンスター相手に、身動きがとれず、どうしたものかと
悩んでいたところ、モンスター共の後方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

おでんくん:「あ、月影さん!よかった、間に合ったんですね!」

そうそう、このデビルスクエアへと誘ってくれた
ウィザードのおでんクン、その人であった。

オレ:「ああ、何とかね。」

おでんくん:「月影さん、”頭”やってもらえますか?」

オレ:「え!?”頭”…?」

おでんくん:「あ、DS初めてなんでしたね。じゃあ僕が”頭”しますね。」

頭って何だろう…?今まで一人でやってきたせいか、この世界の専門用語が全く解らず
毎回苦労している…。ここにきて、今まで全て一人でやってきたことに対し、
少し反省…というか、後悔するようになっていた…。

天の声:「おでんくん様より、パーティーのお誘いがありました。」

どこからともなく、不思議な声が、脳に直接響いた感じがした。

天の声:「おでんくん様とパーティーを組みました。」

ほう、これがパーティー(以後PT)って奴か!
何気にこれが、俺にとっての初PTである。

おでんくん:「よろしくお願いします。」

たまよチャン:「よろピクにゃん!」

オレ:「よろしくな!」

改めて挨拶を済ませると、誰からともなく敵の殲滅へと取り掛かった。

おでんくん:「僕が合図しますので、時計回りに動いて下さいね。」

そう言いながら、彼は呪文を唱え始めると、辺りに黒い風が巻き起こり、
その風が刃(やいば)となって、物凄い勢いで広範囲に広がり、
色んな角度から敵を攻撃して、殲滅し始めた。
後から調べたのだが、彼のスキルは”ソウル・ジ・エンド”、通称”悪霊”と呼ぶらしい。

俺も負けずにTCを放つ。
すると、今までよりも攻撃力が、あきらかに違うことに気が付いた。
いくらクラスチェンジしたとはいえ、武器は変わってはいないし
自力で攻撃力がここまで上がっているとは、到底思えない。

更には先程から、俺の全身を緑色の丸い形をしたオーラが包み込み
両腕からは赤いオーラが放たれている。
火力が上がっている原因は、おそらくこれだろうと、容易に察しがついた。

TCを撃ちながらも、周りをよく観察すると、定期的に
エルフのたまよが、俺とおでんクンに向かって魔法を唱えている。
これも後で調べたことだが、エルフが使う支援魔法の”アタック・プラス”と”ガード・プラス”
通称”A”と”G”が、俺の攻撃力と防御力を桁違いに引き上げてくれていたのだ。

おでん:「移動します。」

敵集団をある程度殲滅すると、少し移動し、また敵集団がいるところで狩り始める。
なるほど。敵が居なくなってから、その場に再出現するまでには時間が掛かるため、
そこで再出現するのを待ってたりはせず、倒したら次、倒したら次と、移動を繰り返せば
常に敵を狩ることが出来、更には違う場所で敵を狩りながら、再出現を待てるというわけか。
これは効率の良い戦略だと、思わず関心してしまった。

天の声:「15分後【デビルスクエア】の扉が閉じられます。」

フム、脳内にこんなアナウンスが流れたわけだが、このイベントには
何か時間制限があるのだろうか?

オレ:「これって時間とか、何か関係あるの?」

思わず質問してしまった。

おでんくん:「DSは、20分で終了します。その間に、
いかに敵を多く倒せるかで、スコアも変わってくるのです。」

へぇ~、20分間か…。しかもスコアなんてあるのね…。

…しかし、このDSとやら…
経験値がめちゃくちゃおいしいのだが…。
ものの5分少々で、俺がいつも一人で1時間狩るぐらいの経験値は
軽く得ていると思えるほどだ…。

その後モンスターは絶え間無く出現し続けたが、たまよのA・Gのおかげで
全く危なげなく時間は過ぎて行った。

最後に、LTで戦った、バルロックの銀色バージョンがボスとして登場したが
おでんクンが、氷の魔法であっという間に倒してしまった…。
これにはもう…色んな意味で、虚しささえ感じてしまうほどだった…

最後に、電光掲示板が現れ、得点発表が行われた…
…わけだが…

1位:おでんくん【203916】
2位:劇団月影【27768】
3位:たまよチャン【4】

1位はダントツで、おでんクンだった…
2位が俺…3位はたまよだが、たまよは直接戦闘には参加していないからな…
いざこうして、スコアとして数値を表されると、俺の攻撃力の無さが
改めて浮き彫りとなり、かなりのショックを受けるのだった…。

こうして俺の初PT、初DSは無事幕を閉じ
全員無事に、ノリアへと帰還することが出来た。

おでんくん:「お疲れ様でした。」

たまよチャン:「お疲れチャン!」

オレ:「ああ…、おつかれさま…。」

おでんくん:「…?月影さん、元気が無いようですが、どうかされたんですか?」

オレ:「…いあ、俺の攻撃力の無さには、自分でも呆れるほどだと思ってね…」

おでんくん:「ああ、DSのスコアですか?
WIZには悪霊がありますから、スキルで得しているような
ものですので、あまり気になさらない方が良いと思いますよ。」

オレ:「はあ…、そんなもんかねぇ…?」

おでんくん:「それよりも月影さんの硬さに驚きですよ?
たまよさんのG、要らなかったんじゃないんですか?」

たまよ:「月ちゃ、硬いヨネェw エナエル泣かせニャン!」

月ちゃ?…ああ、俺のことか…。それに”エナエル”?
あ!EE=エナエル、つまりは”エナジーエルフ”ということかッ!?
また一つ、専門用語の意味が理解出来、嬉しくなってしまった。

たまよチャン:「それにDS行ってないのに、よくそこまでソロで上げれたネェ~?」

確かにな…これだけ短い時間で、こんなにも経験値が入るのなら
ここに何度も通い続ければ、あっという間にレベルも跳ね上がるのだろう…。

オレ:「まあ、一人が好きなんでね。一人で出来ることなら、何でも一人で片す主義なんだ。」

これは俺の、生まれついての天涯孤独という運命から来ていることなので
今更この性分は変えられないし、変えたいとも思わない。

たまよチャン:「ほ~…。あちしはいつも、おでちゃと一緒ダニ。」

おでんくん:「たまよさんとは、いつも固定でPTしてるんですよ。」

フムフム…こういう仲間ってのも、たまには良いものだなと
今回初めてPTを組んでみて、そんな風に思えたのだった。

おでんくん:「ではPTありがとうございました。また機会があれば、PT組んで下さいね。」

たまよチャン:「月ちゃ、またイコ~w」

オレ:「ああ、またよろしくな。」

こういう気の良いヤツらなら、是非またPTお願いしたいモノだ。

二人と別れると、俺はまた、新たな冒険に向かい、旅を続けるのだった…。
…状をぶつけられたカロンと、脅されたゴブ三匹からの、イタイ視線を背中に感じながら…

つづく…

2007年12月 5日 (水)

劇団月影【第三章】壱話

【第三章】

「デビルスクエア」(前編)

ロレンシアから東に進むと、そこは新たな世界”ノリア”へと続いていた。
森と緑に囲まれ、妖精やドワーフ、ゴブリン達が共存する、いかにも平和そうな
”楽園”といった処だった。

ノリアの街に着き、一休みしようと宿屋を探していると
遠くの方がザワザワと、やけに騒がしい…
何やら人だかりが出来ており、沢山の冒険者が、ある人物の前に群がっている。

しかもその内の何人かは、「DS4 1PT入ります」とか
意味不明なプラカードを持って立っているのだ。

気になったので、俺もその集団に近付き、中を覗いてみると、その中心には
”カロン”と名乗る修道者が居て、勇気ある冒険者を募っている様子だった。

話を聞いていると、どうやらこの男が主催する
あるイベントが、これから開催されるらしい…。
それが、今から10分後に開始されるようなので、こんなにも大勢の冒険者が
そのイベントに参加しようと集まっているらしいのだ。

「面白そうだし、俺も参加してみるか。」
そんなことを思っていた時、ある一人の冒険者に声を掛けられた。
その冒険者とは、真っ白く綺麗に光り輝く
煌(きら)びやかな装備をした、ウィザードであった。

ウィザード:「こんにちは。御見かけした所、貴方はDS2クラスのようですが?」

そういえば、この男も「DS2 1PT入ります」とかいう看板を持っている。
DS2だの1PTだの、突然わけの解らない専門用語で聞かれてもな…。
そう思いつつも、礼儀正しい奴だったので、少し話をしてみることにした。

オレ:「DS2?いや、ここには初めて来たので、何がなんだかさっぱり解らないのだが…」

…と、正直に本当の事を言ってみる。

ウィザード:「ほ、本当ですか!?見たところ、羽化はまだのようですが、
レベルはどれぐらいなのでしょうか?」

レベルとか言われてなぁ…
それに、ここに来たのが初めてと言っただけなのに、この驚かれようは
如何なものだろう…?
更にはまた、羽がどうこう言われてしまったし…。

オレ:「レベルとかは知らんが、この前ブレードナイトに上がったところだ。」

こう言っておけば、間違いはないだろう…

ウィザード:「では僕らと同じ、DS2ですね。御一人ですか?」

どうやら会話成立のようだが、今度はまた、俺にとっては当たり前の質問をしてきやがった…

オレ:「御一人…?俺はいつでも一人でやってきたわけだが…?」

…としか、答えようが無い…

ウィザード:「僕らはEEさんと二人なので、丁度ナイトさんを捜していたところなんです。
もしよろしければ、御一緒しませんか?」

EEってなんだ?とか思いつつも、思いがけず誘われてしまったわけだが…
これがもしや、”パーティープレイ”というものだろうか…?

まあ、このイベントには初めて参加するわけだし、案内役が居た方が何事にも有利だろうしな。
何よりこのウィザード、どこぞの魔剣士と違って
丁寧で礼儀正しい好青年だし、断る理由はないだろう。
俺は喜んで、この誘いを受けることにした。

オレ:「俺は劇団月影だ。このイベントは初めてなんで、
足を引っ張るかも知れないけど、宜しくな。」

おでんくん:「ありがとうございます。僕は”おでんくん”と言います。
こちらはEEの”たまよチャン”さんです。」

そう言って彼は、もう一人、そばに居たエルフを紹介してきた。
う~ん、自分に”くん”や”チャン”の付いた名前とは、如何なものか…?
しかも二人ともである…。

たまよチャン:「ども、”たまよチャン”でぇ~す!よろぴくぅ~。」

ほう、このいかにもキャピキャピしたエルフが、”EE”って奴なのか…。
一つの”E”は”エルフ”の”E”だろうが、もう一つの”E”とは一体何なんだろう…?
とか思いつつ、イベントの開始5分前になった。

カロン:「さあ、デビルスクエアの扉が開かれた。勇敢な冒険者達よ、日頃磨き上げたその力
今こそ思う存分 発揮したまえ!」

…ああ、”DS”って、”デビルスクエア”ってことか。
今頃ではあるが、そんな事に自ら気付けたので、つい一人で嬉しくなってしまった。

おでんくん:「お先に入って下さいね。」

そう言って、おでんクンは先に入るよう勧めてくれた。

たまよチャン:「ありが㌧!おさキングッ!!」

そう言うと、EEとやらの たまよは、威勢良くカロンの放つ不思議な光の中へと消えていった。

おでんくん:「月影さんも、どうぞ。僕は看板してますので、後から入ります。」

オレ:「ああ、ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて…。」

そう言って、俺も光の中へ入ろうとした瞬間、カロンに入場を遮られてしまった。

オレ:「あれ…?なんで入れないんだ?」

カロン:「キミ、招待状は?」

オレ:「えッ!?そんなモン持ってねえぞ…?」

おでん:「ええ!?マジですか!?」

カロン:「招待状が無ければ、デビルスクエアを受ける資格は無い。
どうしても入場したくば、レベルに合った招待状を持ってくるんだな。」

招待状だとぉ!?一丁前に格式ばってんじゃねえぞ!?
などと思いつつも、時間はどんどん過ぎて行く…

おでんくん:「ま、まだ時間はあります。混沌は持っていますか?」

いかにも焦った感じで、おでんクンが聞いてきた。

オレ:「まあ、混沌なら、2個はあるな…。」

この前ブラックドラゴン一式を買ってしまった為、今の全財産は悲しいかな
混2なのである…。

おでん:「素材はあげますから、早くあそこで状を作って来て下さいッ!」

そう言って、おでんクンは俺に”悪魔の瞳+2”と”悪魔の鍵+2”を2セットくれた。
ああ、この瞳と鍵って、ここの招待状を作る為の”素材”だったのか…
前に何度か拾ったことはあったが、使い方が全く解らず
今まで全て店売りしてきたものが、これだったのだ。
ここにきて、ようやく使い道が理解出来たので、これも嬉しい発見であった。

うーん、だがしかし…、何やら面倒くさいことになってきたものだ。
宝石も、残りこの混沌2個しか無いわけだし、これを使うとなると
一気に無一文になってしまうわけだ…

でもな…せっかく誘ってくれたんだし、気乗りはしなかったが
招待状とやらを作ってみることにしてみた。

あそこと指を指された方向に行ってみると、そこには
紫色した気味の悪いゴブリン三人(匹?)組が居やがった。
そのうちの一匹が、俺に話掛けてくる。

ゴブリン1:「何の用ゴブ?」

オレ:「招待状の+2とやらを作りたいのだが…?」

ゴブリン2:「素材と混沌、それと20万ゼンよこすゴブ!」

この野郎…混沌の他に、更にはゼンまで取りやがるのか…?
語尾の”ゴブ”とか何気にウザいし、今すぐこいつらを斬り殺したい衝動に駆られたが、
そこは街中だし、怒れる気持ちをグっと堪えてみた…。

ゴブリン3:「成功率は75%ゴブ!燃えても文句言うなでゴブ!!」

何だとっ!?ここまで巻き上げておいて、更には成功率75%だとぉ!?
ふざけるのも大概にしろと思ったが、まあ、75%もあれば、普通は成功するだろう…
そう、気持ちを切り換え、呑気に構えていたわけだが…

ゴブリン1:「兄弟!行くゴブ!!」

ゴブリン2:「あいゴブ!!」

ゴブリン3:「おやのたぁ~めなんらぁ~、え~んやゴ~ブ!!」

何をわけのわからないことを言っているんだ?とか思いつつ
合成とやらの過程を見ていると…

まずはゴブリン3がハンドルをグルグル回し
ゴブリン2はゼンの勘定を始めている…
この野郎…、ゼンはこいつらへの手数料ってわけか!?クソムカつくッ!!
そしてゴブリン1は、後方にある光の中へと混沌、素材を放り投げた。

時は静かに過ぎていく…

ゴブリン1:「…」

ゴブリン2:「……」

ゴブリン3:「………」

オレ:「…おい、出来たんだろ?さっさと招待状とやらをよこせ!」

ゴブリン1:「…失敗ゴブw」

こぉんの野郎…

オレ:「ワザとだろ?」

そう言うや否や、俺はゴブ野郎の喉元に剣を突き付けた。

ゴブリン1:「ご、誤解ゴブ…反対の25%の確率引いただけゴブ~…」

ゴブリン2:「そ、そうゴブよ…」

ゴブリン3:「や、八つ当たりはヤメるゴブ…」

…もはや混沌は、残り一つしかない…

おでんくん:「月影さ~ん、後2分です~!!」

遠くでおでんクンが、いかにも焦ってますといった感じで叫んでいる…
もう時間が無い…

オレ:「次やったら、解ってるな?」

そう言って俺は剣を収めた。

ゴブリン1:「そんなの知らないゴブよぉ~…」

オレ:「いいから早くしろ!」

ゴブリン2:「もう~…行くゴブ!」

ゴブリン3:「おやのたぁ~めなんらぁ~、え~んやゴ~ブ!!」

またゴブリン3がハンドルをグルグル回し、ゴブリン1が素材を放り込む。
…やはり、ゴブリン2だけは要らない気がする…

ゴブリン1:「…」

ゴブリン2:「……」

ゴブリン3:「………」

オレ:「…………」

キラキラーン♪

お、何か成功っぽい音がしたぞ。

ゴブリン1:「せ、成功ゴブ…」

オレ:「やれば出来るじゃねえか。最初からこうしてれば良かったんだよ。」

そう言って俺は、ゴブ野郎から出来たての招待状をむしり取った。

ゴブリン2:「う、うるさいゴブ…」

ゴブリン3:「お、お前みたいに失敗して文句言う奴、キライゴブ…」

オレ:「何だとゴブ!」

あ、ゴブうつっちまったじゃねぇか!?

おでんくん:「月影さん、時間時間!!」

まずい、こんな奴ら相手にしている場合じゃなかった。
俺はカロンの元と急いだ。

天の声:「デビルスクエア入場締め切り5秒前…4…3…2…」

オレ:「まったぁ~~~~~~~~~ッ!!!!!!!!!!!」

俺はカロンに招待状を投げつけ、光の中へと飛び込むのだった…。
(投げつけた招待状が、カロンの顔面に直撃したことは内緒である…)

つづく…

2007年12月 3日 (月)

劇団月影【第二章】七話

「ブレードナイト」

バルロックに喰らった傷が痛む…。
今まであのアホ魔剣士への怒りで、アドレナリンが大量に分泌されていたからだろうか?
気が付かなかったが、俺の胸辺りから、大量の血が流れている…。

このままではまずい…
周りには、死霊の騎士や、灼熱のゴルゴンが集まってきている…
意識がまだあるうちに、さっさとセビナの元へ戻ろう…。
そして俺はセビナを想い、瞬間移動した。

デビアス…

気が付くと、俺はセビナに抱きかかえられ、治療を受けていた。
傷口に目をやると、セビナが傷口に掌をかざし、優しく暖かい光で俺を包み込んでくれていた。

セビナ:「気がつかれましたか?非常に危険な状態でしたので、
”ヒール”で応急処置をしていたところです。」

なるほど、これがエルフがよく使っている”ヒール”の呪文なのか…。
これはとても気持ちがいい…。おかげで俺の体力はグングン回復していった。

オレ:「ありがとう、もう大丈夫だ。」

はっきりと意識を取り戻した俺は、セビナに御礼を言って、彼女の腕の中から立ち上がった。

セビナ:「あれほど危険だと言ったのに…でも無事で何よりでした。」

…アホにペースを乱されたなどとは、死んでも言えんだろう…。

オレ:「まあ、イロイロあってね。前に死にかけた時には、真っ裸で飛んできてたらしいから
そう考えると今回は、鎧を着てた分 少しはマシになったってところかな。」

セビナ:「そんな事があったんですか?では今回は、成長した方だったのですね?」

彼女は笑いながらそう言った。

そう、前に俺は、愛しいマダムライオンの元へ、裸で瞬間移動してしまった過去がある。
そんな話をしているうちに、またもマダムが恋しくなってしまった…。
彼女にとって、俺はまだ”ボウヤ”のままなのだろうか…?

…そうだ!あのアホのせいで、すっかり忘れていたが、俺の目的はバルロックを倒し
騎士の形見を取って来ることだったのだ。
きっちり任務は遂行してきたと、セビナに報告しなくては…

オレ:「騎士の形見、取ってきたぜ。これでいいんだよな?」

そういって、俺はセビナに騎士の形見を渡した。

セビナ:「よく頑張りましたね。確かにこれが、騎士の形見です。それでは、貴方に私から
最後の力を授けましょう。」

そう言って彼女は、また小声で呪文を唱え始めた。

セビナ:「古(いにしえ)の騎士達の魂よ、この者に新たなる力と祝福を与えたまえ!」

最後に彼女がそう言うと、俺の全身は燃えるように熱くなり始めた。
俺の心の内側から、どんどん力が溢れ出してきて、押さえ切れないほどのエネルギーが
満ち溢れるのを感じる…。

オレ:「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!!」

全身にオーラが漲り、俺の体は今までよりも確実にその強さを増していた。
この世界へ来て、俺も大分強くなった気ではいたが、ここにきて、まさかこれほど桁違いの
パワーアップを感じることが出来るとは、夢にも思っていなかった…。

セビナ:「貴方は今、ナイトの位(くらい)から、”ブレードナイト”の位へと進化したのです。」

オレ:「ブレードナイト…」

セビナ:「それは、貴方一人の力ではありません。古の騎士達が、魂となっても尚、
ミュー大陸の平和と発展を願い、現在の騎士達(貴方達)を信じる心が力となって、
貴方がたナイトをブレードナイトへと昇華させたのです。」

オレ:「そうか…俺一人の力では無い、古の騎士達の魂の力が、
俺の成長を支えてくれているのか。」

セビナ:「そうです。貴方は今まで、強さの限界を感じながら
ここまで来たと思っていたでしょうが、ブレードナイトとなった今、
その強さに限界はありません。貴方が強さへの向上心を失わない限り、古の騎士達は
きっと貴方の期待を裏切ることなく、これからも貴方を支え続けてくれることでしょう。」

そう言われれば、確かに俺だけの力じゃこんなにも桁違いな強さは生まれないはずである。
俺の中に古の騎士達の魂が宿り、俺という一人の人間の
器の大きさを底上げし、増してくれたということなのか…。
確かにもう、限界なんて感じられないほど、俺の世界は広がっていた。
俺が強くなりたいと願い続ける限り、俺はまだまだ強くなれるってことなんだ!

オレ:「色々と世話になりました。本当にありがとう。」

俺はセビナに、心からの御礼を言うと、彼女に向かって深々と頭を下げた。

セビナ:「ミュー大陸に また一人、頼もしいブレードナイトが誕生してくれて、私も嬉しいかぎりです。
これからも、このレムリア発展の為、その力を存分に振るって下さいね。」

そう言って、彼女も俺に対し、深く頭を下げてくれた。

セビナ:「次はいよいよ羽化です。ハイランダー目指し、ますます精進して行って下さい。」

!?…そういえば、あのクソ魔剣士も似たような事を言っていたな…
もう少し強くなったら、俺にもあんな羽が生えるということなのか。

よし、決めた!羽が生えたら、もう一度マダムに会いに行こう!
そして、俺の気持ちをキチンと彼女に伝えるんだ。
もうボウヤ呼ばわりは させないぐらい、立派なブレードナイトとして…。

俺はもう一度セビナにお辞儀をし、別れを告げた。

デビアスを後にした俺は、その足で、一旦取引場へと寄ることにした。
今回の遠征で、相当な数の宝石を稼ぎ出したので、今の装備でも十分な感はあるのだが
ブレードナイトにもなったことだし、ここは更にワンランク上の装備でも揃えようと思ったからである。

取引場…

相変わらずここは活気があって、大勢の冒険者で賑わっている。
ナイト用の武器屋が並んでいたが、俺は正直、武器に あまり興味はない。
どちらかと言えば、断然防具を優先するタイプだ。
これは人それぞれ考え方があるだろうが、俺の考え方はこうである。

攻撃力がいくら上がったところで、防御力が低ければ、長時間の狩りには不向きだし
何より上級の狩り場には、とてもじゃないが行けないだろう…。

だが、防御力が高い場合、いくら火力が低く長期戦になろうとも
こちらの受けるダメージは低いわけだし、何度も何度も繰り返し攻撃をしていれば、
こちらは負けることはないが、相手はいつか必ず倒れるのである。
そういった考えから、とにかく俺は守備を優先する、堅実タイプな冒険者なのである。

さてさて、お目当てのナイト防具コーナーへとやってきたわけだが、
何か丁度良い防具がないか見ていると
そこには俺の物欲をそそる、とびきりイカした防具が店に並んであった。

ブラックドラゴンシリーズ

とにかくデザインが一目で気に入った!
更には装備がキラキラと光り輝いている。
値段を見れば、やはりそれなりに高価なわけだが、今持っている全財産を注ぎ込めば
買えないわけではない。
今まで必至になって貯めた宝石だし、少し惜しい気もしたが、ここはフンパツして
ブラックドラゴン装備一式 買うことを決めた。

早速装備してみると、これがまた事前に仕立て合わせたかのような最高のフィット感に
更には見た目のゴツさと違い、全く重さを感じさせない着心地は まるで
肌着で過ごしているかのような感覚すら覚えた。

装備も一新し、次なる目的地”ノリア”へと俺は向かうのだった。

【第二章】…完

2007年12月 2日 (日)

劇団月影【第二章】六話

「ロストタワー」(後編)

ロストタワー七階…

おいおいおいおい…
いきなり勘弁してくれ…

一気に七階まで来たのはいいが、いくらなんでもこれは敵が多過ぎるだろう…
デカいコウモリみたいな化け物や、体中から火を噴いてる腐った騎士まで居やがる…
更に極めつけは、俺があれほど苦労して倒した、ダンジョンのボス
魔将軍ゴルゴンが、炎まみれで雑魚のように量産タイプで登場するのだ…

かつてあれほどの死闘を演じた、言わばライバルとも呼ぶべき存在のモンスターが、
ここまで落ちぶれているとは…これにはもう、呆れるのを通り越して
もはや哀れみさえ感じてしまった程である。

こいつらの数は半端ではない。
目視出来るだけで、ざっと10匹以上は居るだろう…

一度はTCで迎え撃ってみたが、とても捌ききれる数では無いし、ここに来て、
装備を変えてから初めて痛みを感じるほどのダメージを受けるようになっていた。

このままではマズイ…
ここのボス、バルロックとやらと戦う前に、消耗しきってしまう…。

そう考えた俺は、こいつらの相手は後回しにして、とりあえず
バルロックが居そうな奥の方へと進むことにした。

だが奴等は常に俺を追いかけてくる。
しかも逃げ回るごとに、その集団の数も増えていき
倍の20は居るのではないかと思われるほど、俺のすぐ後ろに固まってきた。

いつまでもこのまま逃げ切れるものではない…
丁度良い具合に、俺の進んだ先には、細道になった橋があり、モンスターも一度に
二・三匹ぐらいしか通れない橋なので、ここで少しずつ相手をして、数を減らしていこう…
そう思った瞬間だった…

白い光の玉が数個連続で飛んで来て、俺を追いかけてきたモンスター集団は
あっという間に綺麗さっぱり消え失せた…
あまりに一瞬の出来事だったので、我が目を疑ったが、
俺の目の前に迫っていたモンスター共は、紛れも無く
全員地面へと崩れ落ちたのである…

遠くから、人の声が聞こえた。

人の声:「あ、ごめ~ん。釣ってた?」

そう言いながら近付く人影は、今まで見たことも無いような大きな剣(つるぎ)を片手に
更には綺麗な青光りした鎧に、大きなメカメカしい羽まで付けた冒険者だった。

…そうか、こいつがうわさの”魔剣士”ってヤツかッ!?

オレ:「…釣ってた?」

ヤツの言葉尻が気になったので、聞き返してみる。

魔剣士:「いや、ワザと敵を集めて、まとめて狩るのかと思ってね。違った?」

オレ:「あ、ああ…まあ、そう…だな…。」

実は「逃げ回っていたので、非常に助かりました。」などとは
恥ずかしくて口が裂けても言えないだろう…

魔剣士:「ああ、やっぱり…。狩りの邪魔しちゃってごめんね。ボクはウテナ
天上ウテナって言うんだ。君は?」

オレ:「俺は劇団月影だ。」

天上ウテナ:「へえ~、変な名前w。」

…大きなお世話だ。
初対面にもかかわらず、失礼にもほどがあるだろう…。
しかも、(笑)の意なのかは知らないが、語尾に
”w”が付いていた口調のような気がして、異様にムカつく…

オレ:「今は”バルロック”とやらを倒せねばならないんでね。
アンタと話してる暇は無いんだ。…というわけで、また今度な。」

”また今度”…その気も無いが、一応の社交辞令を交わしつつ、その場を去ろうとしたところ…

天上ウテナ:「ああ、キミ、もしかしてクエスト中かい?」

オレ:「クエスト?」

天上ウテナ:「うん、デビアスに居る女の人から行ってこいって言われたんじゃない?」

オレ:「まあ、そうだな。」

天上ウテナ:「やっぱりそうかwじゃあ、バルロックのみが標的なんでしょ?」

オレ:「まあ、そうなるな…。」

天上ウテナ:「そっか。じゃあこの辺りのザコは、ボクに任せてよw!」

こいつッ!意外とイイ奴なのではッ!?
そう思った次の瞬間…

天上ウテナ:「キミはバルロックに集中出来て、ボクはこの辺りのザコを狩りまくり、混沌探すw
ああ…なんて合理的で、素敵な考えなんだw!ボクって天才かもww!?」

…一瞬でもこいつをイイ奴だと思ってしまった自分が情けなく思えた。
…だがまあ、一応こいつの言う通りではある。
周りの雑魚は、このアホに任せておいて、俺は思う存分バルロックと対戦させてもらおう…
そんなことを考えていると…

天上ウテナ:「あっ!キミのお目当てのバルちゃんが来たみたいだよw」

…!!!?

何やら凄い勢いで、こちらに近付いて来る赤い影がある!
あれがここのボス、”バルロック”って奴かっ!?

見た感じ、相当大きい…。全長3メートルはあろうかという大きさだ。
上半身は人型の騎士、下半身は馬と、全身真紅に染まったその姿は
まるで中世の馬騎士を彷彿とさせ、高貴な気高ささえ感じてしまう程だった。

そんな姿に見とれていると、そいつは大きな鎌を振り回し
俺にむかっていきなり斬りかかってきやがった。

「くッ!」あのアホのせいで、完全に不意をつかれた。
まだ体制の整っていない俺を、バルロックは容赦なく攻め立てる。

さすがはLTを仕切るボスキャラだけはある。
今までの敵とは比べ物にならないほどのプレッシャー(攻撃力)を感じた。

何とか鎌攻撃をいなし、体制を整えると、今度は俺も反撃に移った。
こいつは単体の為、TCよりも、普通のスキルの”真空斬り”で斬りつけるのが一番効果的だろう。
与えるダメージが低いのは、解りきってはいたが、今はただ、
愚直に”ただのスキル”を繰り返すしか手が無かった。

…すると遠く後方から、またあのアホが何かほざいている…

天上ウテナ:「ツキカゲくぅ~ん!」

ムカつく声だが、今は正直それどころではない。
バルロックの鎌攻撃をかわし、スキルをヒットさせることで頭がイッパイの俺は
あんなアホに構っている余裕など、微塵もないのだ。
だがしかし、俺の無視攻撃にもかかわらず、アホはめげずに話掛けてきた。

天上ウテナ:「苦戦してるみたいだねぇ~?手伝おうかぁ~w?」

…全く、大きなお世話である。
バルロックとの攻防にも慣れ、少し余裕が出てきた。
アホがどの程度 雑魚を狩ったのか気になったので、ヤツの方に目をやると
俺は驚愕の事実を目の当たりにした…。

ヤツの周りには、数十はあろうかという雑魚の死骸が散乱し、更には
その死骸数体をクッションにして、大又を開き、太股の所に片肘をついて頬を支え
”いかにも”といった感じで俺の戦闘を退屈そうに眺めてやがったのである…。

そんな光景を見せつけられた動揺からか、俺は肝心の相手
バルロックの攻撃を、まともに喰らってしまった。

オレ:「ぐはッ!」

俺の胸板は、鎧ごと斬り裂かれ、血しぶきを上げながら
そのまま数メートル後方にふっ飛ばされてしまった。
飛ばされた俺のすぐ近くには、あのアホ魔剣士が”いかにも”の格好のまま
そこに鎮座してやがった。
そして奴は”いかにも”な上から目線で、俺を見下しながら こう言い放った。

天上ウテナ:「へ~、あんな攻撃喰らっても、まだ死なないんだぁw?
キミって結構、頑丈なんだねぇ~ww?」

プッツン…
頭の中で、何かがキレたような音がした。
これだけは聞くまいと思っていたが、今までのこいつの言動からして
もはや疑う余地は無いだろう…。

オレ:「お前、B型だろ?」

痛みを堪えながら立ち上がり、俺はアホにそう聞いた。

天上ウテナ:「よく解ったねぇwボクは思い込みの激しいB型だからねw」

「誰もソコまで聞いてねぇ…」と、心の中でツッコんでみる。

こんな奴に協力してもらうぐらいなら、死んだ方がマシだッ!
そう思えるぐらい、俺はコイツが嫌いなんだと、今 確信した。

そんな怒りからか?激しい痛みも忘れ、傷つきながらも
また俺は、バルロックの元へと走り込む。
地味にではあるが、俺のスキル攻撃もジワジワ効いているらしく
奴の動きも鈍ってきているようだった。

そんな中、懲りずにまたあのアホが何か言い出しやがった。

天上ウテナ:「ねぇ~、ツキカゲく~ん。何でGB使わないの~w?」

クソッ!完全無視のつもりだったが、今度は奴の声までがムカつき始め、
一度その声がムカつき始めると、その声が聞こえる度、もはや頭の中で
気になりだして仕方がないのである。

天上ウテナ:「なんでGB使わないのさぁ~w?」

もう…ウザ過ぎる…。
雑魚が来ても良いから、ヤツだけ消えてくれまいかと思う程だった…
だがしかし、更に奴は叫んでくる…。

天上ウテナ:「ねぇ~、YOU、GB使っちゃいなよぉ~ww!」

もう~…GBGBGBGBうるさいんじゃあ~ッ!!!

オレ:「GBって何だぁ~ッ!?」

あまりのウザさに、遂に俺はヤツに構ってしまった。

天上ウテナ:「えっw!?キミGB知らないのww?」

オレ:「だから何なんだよ?GBってッ!?」

バルロックと必死に応戦しながら聞いてみる。

天上ウテナ:「ゴッドブローだよ、ゴッドブローw!」

オレ:「はあ?そんなモン知らねえよッ!?」

もはやどうでもよくなっている感のある、バルロック戦ではあるが、こういうのを
怪我の巧妙とでも言うのだろうか?アホへの怒りをバルロックに向けることで、
俺の与えるダメージが次第に大きくなっているように思えた。

天上ウテナ:「ツキカゲくぅ~ん、これ斬り落としてみてぇ~www!」

そう言って奴は、何か丸い玉を俺目掛け思いっきり投げつけて来た!
嘘だろッ!?嫌がらせもココまで来ると、もはや笑い事では済まなくなる。
バルロックの攻撃を何とかかわした俺は、アホが投げつけた玉をすんでの処で斬り落とした!

「危ねぇだろッ!」文句を言おうとした瞬間、斬りつけた玉が空中で破裂し、不思議な光が
俺の全身を包み込んだ。これはアイスクイーン戦の時に、TCを覚えた光と同じモノだった。
あの時と同じ感覚が、俺の体を支配する。
俺の意識とは無関係に、両腕が動き始めた。

相手のバルロック目掛け、物凄い速度の鋭い突きが、連続で叩き込まれる。
これがGB…?
ゴッドブローかッ…!?*1

その突き連打の威力は凄まじく、バルロックの鎧を突き破り、奴は悲鳴を上げ
俺の前で そのままガックリと力尽きた…。

そして奴の亡骸からは、騎士の形見と思われるアイテムがドロップしたのだった。
それを拾い上げると、後ろから拍手の音が聞こえてきた。

天上ウテナ:「パチパチパチ!クエスト遂行おめでとぉ~w!
いやぁ~!あんなに速いGB、今まで見たこと無いよぉwキミって敏特化なんだねぇww?」

こいつが何を言っているのか、全くもって理解不能なのだが、とりあえず殴ろうか迷っていた…。
だが冷静に考えると、こいつのおかげでバルロックとタイマン張れたわけだし
何よりゴッドブローを覚えられたのも、こいつのおかげだったりするわけなので…。
それを考えると、どうもコイツを憎み切れない感じがした。

オレ:「まあ…イロイロあったが、一応 礼は言っておく、ありがとよ。」

天上ウテナ:「いやぁ~、礼なんていいよぉwキミがバルちゃんを引き付けている間に
ボクも混沌10個ぐらい拾っちゃったしねぇwww」

…やっぱ、殴ってもいいな…。

天上ウテナ:「クラスチェンジすれば、次はいよいよ羽化だねぇ。
羽化する時が、一番テンション上がるんだよなぁw」

イチイチわけの解らん専門用語でベラベラベラベラしゃべりやがって…。
やはりコイツは一発殴っておくべきだろう。
そう思い、拳を強く握り締めた瞬間、またヤツが何か言い出してきた。

天上ウテナ:「そうだ、まだ使えないかも知れないけど、GB知らなかったぐらいだから
これも持って無いんでしょw?」

そう言ってヤツは、懐からさっき投げつけたのと同じ玉を取り出した。

天上ウテナ:「さっき投げた玉が”神撃の玉”で、これは”震破の玉”って言うんだw
使えるレベルになったら、勝手に割れるから、持っておくといいよww」

そう言って、その玉を俺にくれるのだった…。

…やっぱり、イイ奴なのだろうか…?
俺は今にも殴りつけようかと握り締めていた拳を、そっとしまった。
そして俺は、気になる質問をしてみる。

オレ:「アンタもセビナの試練を受けたのかい?」

天上ウテナ:「えw?ああ、ボクは魔剣士だからねw
そういう下っ端が受けるようなクエストは、残念ながら無いんだよw
学生で言えば、特待生で推薦入学みたいなもん?かなぁw
まあ、魔剣士用のクエストなんて、あったら受けてみたいけどねぇ~www」

…やっぱり嫌な奴だ…。

天上ウテナ:「キミみたいな無謀クンって、貴重な存在だなぁw
しかもこの世界の常識、まるで知らないみたいだしww」

…お前に常識云々言われたくはないのだが…?

天上ウテナ:「何かキミとは、またどこかで会える気がするなぁw
それじゃあ、またねぇ~!wwwwwwwwww」

そう言うと、早々にアホは何処(いずこ)かへと去って行った。

だがクソ魔剣士よ…
俺はお前みたいな奴とは、正直 二度と会いたくは無い…
薄れゆく意識の中、そのことだけは はっきりと心に焼き付けるのだった…。

つづく…

*1本来ならば、ブレードナイトでなければ覚えられないスキルですが
ただの作り話ですので、細かいツッコミはやめて( *´・д・)(・д・`* )ネー

2007年12月 1日 (土)

劇団月影【第二章】伍話

「君子豹変す」

俺は帝王の書片手に、セビナの元へと戻った。

オレ:「帝王の書って、これだろ?」

俺はぶっきらぼうにセビナに本を渡した。

セビナ:「あら、意外と早かったですね。確かにこれが、帝王の書です。」

さてさて、俺が今一番興味があるのが、この女が散々言っていた
”新たな力”とやらの正体である。
これからどんな力を俺に授けてくれるのか、俺の中の小悪魔は
そのことに対する興味で頭がイッパイだった。

セビナ:「今からこの本を読んで差し上げましょう。」

そう言って、彼女は本を読もうとしたが、俺の興味は正直ソコではない。
話を遮(さえぎ)る様に、俺は彼女にこう言った。

オレ:「すまないが、俺はそんな子供騙しの昔話には、全く興味ないんでね。
早く”新たな力”とやらを俺に授けてくれないかな?」

更に続けて、俺は言ってやった。

オレ:「そんなモノ(新たな力)が、ホントにあるならの話だがな?」

どうせ「今までの戦闘で得た経験が、貴方の新たな力です。」とかでも言いたいんだろう?
そんな考えが、更に嫌味な口調となって、彼女にそう言い放っていた。

セビナ:「…せっかちな方ですね…。分かりました、では目を瞑って下さい。」

はあ?この女、この期に及んでも、まだこんなこと言って来やがるのか?
正直俺は、呆れてモノも言えなくなってしまったが
ここまで付き合ってやったんだ、これも何かの修行だろう…
そう思うようにして、嫌々ながらも、俺は素直に目を瞑ることにした…。

すると何やら、俺の額辺りが暖かくなって行くのを感じる…
目を瞑っているので、はっきりとは分からないが、どうやら俺の顔の前に
セビナが掌(てのひら)を近付けて、何やら呪文のようなモノを、小声で唱えているようだった。

セビナ:「カァーーーーーーーーーーンッ!!」

突然、気合のような大きな掛け声を発すると、俺の足元から頭の上まで暖かい光が
一気に駆け巡り、一瞬にして数段レベルアップしたかのような、かつて無いほどの
力が体中に漲り、新たな力が俺に備わったのが、自分でも解るほどだった。

セビナ:「どうです?今までに無いほどの力を感じませんか?」

そう言われて、俺はハっとした…。
そうだ、セビナの言う通り、本当に”新たな力”は存在したのだ。
それを俺は、最初から嘘だと決め付け、今まで彼女に対し
散々失礼な態度で接して来たわけである…。
俺は彼女に対し、どう詫びたらいいのか解らないほど、申し訳ない
気持ちで一杯になってしまった。

オレ:「ああ、アンタの言う通り、全身から、溢れるぐらいの力を感じている…。
今の俺は、さっきの俺よりも確実に、数段強くなっていると思う…。」

セビナ:「そうですか、それは良かったですね。」

そう言ながら彼女は、今まで目深に被っていたフードを後ろに下げ
満面の笑みで俺に微笑み掛けてくれていた。

想像以上の美人だった彼女の、その笑顔は
まるでこの地上に舞い降りた天使そのものであった。

その汚れ無き笑顔を見て、やはり俺はこの女性(ひと)に対し、
今までの非礼を詫びねばなるまいと、深く反省し
彼女にキチンと謝罪しようと決心した。

オレ:「正直、今までアンタの言うことが信じられなくて、どこかで馬鹿にしながら、アンタの
言う通りに動いてきた。最初から、アンタのことを馬鹿にして、失礼な態度ばかり
取ってきたんだ。本当に申し訳ないと思う…すまなかった。」

そういって、深々と頭を下げると、彼女は不思議そうな顔で俺を見つめ こう言った。

セビナ:「どうして謝られているのか よく解りませんが、
別に貴方の態度が失礼だったとは思っていないです。
それよりも、他の冒険者の方達の方が、よほど酷い態度を取られる場合もありましたよ。」

オレ:「いや、やはり俺は、アンタのことを怪しい宗教か何かと決めつけ、
最初から疑っていたのだから、アンタに対し、キチンと謝罪をする必要があると思います。
疑ったりして、申し訳なかった。」

そういって俺は もう一度、彼女に対し深く頭を下げた。
すると彼女は、優しく微笑みながら こう言ってきた。

セビナ:「”君子豹変す”という言葉を御存知ですか?」

…?初めて聞く言葉だった…。

オレ:「…学が無いんでね、正直、聞いたことが無いな。」

セビナ:「フフ、貴方のような方を指す言葉ですよ。」

また微笑みながら彼女は言った。
言葉から察するに、あまり良い意味には聞こえないので、恐らくは皮肉でも言われたのだろう。
だが、それも仕方が無いほど、俺は彼女に対し失礼な態度で接して来たわけである。

そんな俺の、曇った表情から何かを読み取ったのだろうか?
彼女は、すかさずフォローを入れてきた。

セビナ:「誉め言葉ですよ。君子たるもの、自分の過ちに気付いた時には素直に過ちを認め
すかさず改善するということです。つまり貴方は、自分が間違っていたと気付いたならば
素直に非を認め、考え方を切り替えられる、賢い方だということですよ。」

うーん、なるほど。確かにアベルも似たようなことを言ってたっけ…。
やはり人間、素直が一番といったところだろうか…?

セビナ:「さて、この件は終わりにして、どうです?まだまだ強くなりたくはありませんか?」

…!?

何だとっ!?たった今、こんなにも強くしてもらったばかりなのに、
更にまだ強くなれると言うのか??
いや、さすがに彼女のことは、もはやバッチリ信頼しているわけなのだが、
こうも立て続けだと、どうも戸惑ってしまう自分がいる…。
…だが、ここまできて、話を聞かないわけにもいかないだろう。

オレ:「そりゃあ、まだまだ強くはなりたいさ。」

俺の本心を言ってみる。

セビナ:「ではもう一度、私の課す試練に挑戦してみる勇気はありますか?」

やはりこういう流れになるわな…。

オレ:「そうだな、お願いしてみるか。」

セビナ:「但し、今回の試練は先程のような生ぬるい試練とは違い、相当な危険を伴います。
もしかしたら、死に至るかも知れない、それほど危険な試練なのです。ですので、この試練は
誰にでも勧めているわけではありません。それでも挑戦しますか?」

あれほど苦労した さっきの試練を、こうもあっさり”生ぬるい”と言い放つ、新たな試練…。
だが、誰にでも勧めているわけでは無いということは、逆を言えば、
俺はそれだけ見込みがあると思われたとも取れるわけだ。
…となれば、これほどの美人に見込まれては、断る理由は無いだろう。

オレ:「ぶっちゃけ、強さに対する貪欲さは並みじゃないんでね。
まだまだ伸びしろがあるなら、俺は挑戦し続けるぜ!」

セビナ:「貴方なら、きっとそう言うと思っていました。
では準備が整いましたら、またここへいらして下さいね。」

オレ:「分かった。じゃあ、ちょっくら準備してきます。」

そういって俺は、次なる試練への準備を始めた。
ポーションの買い込みや、倉庫整理、冒険に必要な準備を一通り終えると
即、セビナの元へと戻る。その間、数分足らずといったところだろうか。

オレ:「準備OKっす!」

セビナ:「ぷ、素早いのねぇ…。」

彼女は口元を手で押さえ、笑いを堪えながら そう言った。

セビナ:「今度は”騎士の形見”というアイテムを持って帰るのが、貴方への試練です。」

ほう…”騎士の形見”ねぇ…

セビナ:「今回はドロップ限定品ですので、明確な目標も御教えします。ロストタワー最上階の
七階にいる、ボスの”バルロック”というモンスターを倒せば入手出来ます。」

オレ:「へえ~、じゃあ今回は、複数狩るってわけではないのね?
ある意味、前の試練よりも楽そうだけどね…。」

セビナ:「バルロックを侮ってはいけません。現に今まで、何人もの冒険者が
バルロックの餌食となっているわけですし、それに、注意すべき敵は、バルロックだけでは
ありませんので、周りにも十分に注意して、今回の試練に臨んで下さい。」

そう言ったセビナの顔は、非常に険しい表情していた。
それほどこの試練が、危険なのだということだろう…。

オレ:「解った。じゃあ、心してこの試練を受けてくるよ。」

セビナ:「ロストタワーでイチイチ階段を上っていくのは煩(わずら)わしいでしょう?
私が瞬間移動で貴方を最上階まで飛ばして差し上げます。」

おお!これは願ったり叶ったりの展開じゃねえかッ!?

オレ:「んじゃ、お願いします!」

セビナ:「分かりました、では行きますよ。」

そういって、彼女は静かに呪文を唱え始めた。
俺の体の周りには、不思議な光が満ち溢れ、体がフワリと浮き始めた。

セビナ:「今の貴方なら、いきなり七階へ行っても、死ぬことはないでしょうから…。」

オレ:「えっ…!?」

何か最後の一言が気になったのだが、時すでに遅し…
俺の体は高速の光となって、LT最上階めがけ、一目散に飛んで行くのだった…。

つづく…

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